【特集】アンコール 『べてるの家から吹く風』(いのちのことば社) 出版記念講演対談 向谷地生良 × 田口ランディ


計画的 〜それで順調〜


田口:うーん。私、ようやく最近諦めついてきましたね。あの自分のアル中の親父とか、うん。本当にべてるのお陰で。諦めるしかないんだこれはって思う。

向谷地:そうですね。でその諦め方のポイントっていうのは普段こういう仕事してますから、先程あの日産自動車のゴーンさんが、「計画とはその通りやってこそ意味がある」なんてさっきちらっと見て。

田口:はい。

向谷地:なんかポスターがでてましたよね。

田口:見てたよね。

向谷地:あっそうだ、私は計画的に物事を進めてきたのだってね、本を見て思ったんですけど、計画的だったなぁって。

田口:向谷地さんが?

向谷地:えぇ。あぁ私は結構計画的に生きてきたんだなって。

田口:ほー!もうちょっと詳しく教えてください。

向谷地:というのは、あのその計画的っていうのは、よく浦河では「順調」っていう言葉をつかうんです、「それで順調」っていう言葉。

田口:はい。みんなね。

向谷地:それで順調っていう言葉を使うっていうのは、こう見方を変えれば、あぁこれは予定通りだねっていう意味ですよね。

田口:そうだね、順調だからね。

向谷地:そうなんですよ。だから私はけっこう計画的に物事を進めてきたんだって。

田口:いつ計画してたんですか?

向谷地:私たちの計画っていうのは、例えば下野君が退院したとすると。退院してどんな苦労が予測される?って。そしたらまぁこんな事が起きるかな、あんな事も起きるかな、ほとんど良い事何も起きないんですよね。

下野:はい。

向谷地:じゃぁ、こういう事が起きてそのうちちょっと薬変わったりして、酒にはまって、彼女とトラブってこういう風になるかもしれないんだね。じゃぁそれで順調なんだ、わかったわかった。そうすると計画どうりに行くんだよね。どうですか?

下野:いや、そうですね。予定通り。

田口:順調?

下野:それが当たり前なんですよね。ガラス割れたり、ぐちゃぐちゃになったりっていうのがいつも日常。

向谷地:私たちは「それちゃんと自分の予測した通りじゃない、計画的に物事進んでるよ、すごいね、ちゃんと先を見越してるよね」ってそこからはじまるんですよ。

田口:あたしたちは違うよね。あたしなんかは全然やっぱり、退院したら良くならなきゃって思ってるし、退院したら前よりも正しい暮らしとかさ、いろいろ夢見ちゃうと思うけど。もっと良いことをたくさんたくさん。それで、それを達成できないとまたすごく挫折感を持っちゃったり、あるいは達成させようと努力したりとかしがちですよね。

向谷地:ですから、目標がですね、ここ(上の方)にないんですよ。こう見るとね、下手に開き直ってるというような感じしかしないかもしれませんけども、このいろんな行き詰まりのなかでそれでも何かを肯定していくっていうか。そういうひとつの在り様、こういうことを目標にしたけど結果はこうだったよっていうような捉え方をしないというのかな。順調ってこんなに大変なんだよなっていう感じのところで、じゃあどうしようかという、そういうポイントに絞ってる。

田口:こないだべてるに行ったじゃないですか。でね、最初浦河に着いたら真っ先にニュー べてるっていうべてるの家の事務所があるところに行くんですけど、トコトコと歩いて行ったら下野君がいるわけ。で、なんかずっと引きこもりしてたとか、最近やっと元気になって出てきたんだよなんて聞いてたんだけど、あたしは結構仲良くて何度も会ってるのに、あたしの顔を見るなり怯えてるんですよ(笑)

下野:怯えてました?

田口:怯えてましたよ。でさぁ、あたしに「あのランディさん、怒ってるっしょ、怒ってるっしょ」って、「あぁやっぱり怒ってるんだ、怒ってる怒ってる」って言いながらねなんか海老のように後ずさりしてどっか行っちゃいましたけど(笑)

会場:笑

田口:あぁ、まだちょっと具合悪そうだなぁなんてなんか思ってたら、そのうちに駐車場でタバコ吸ってて、本当に怒ってる人がいて、具合悪くってちょっとこうぱぴぷぺぽになっちゃってるかと思ったんだけど。で、みんなでね、その人を窓の外から見ながら「あぁタバコ捨てちゃってるよ、いつも大事にしてるのに、そうとうあれは来てるなぁ」とか喋ってるわけ。その様子を見ながら。本当にね、何か多分幻聴聞えてるんだと思うんだけど駐車場でタバコをばら撒きながら歩き回ってるんですよ、のそのそのそのそ。
でね、そのうちにね、えっちゃん(向谷地悦子 看護師)がね、「今日男手が少ないからあの人やっぱり病院に連れてかなきゃいけないから下野君ちょっと下に行って様子見てきなよ」って具合の悪い下野君に言ってるの。それでね、下野君、「えぇそんな事したら殴られちゃうよ」、「いいじゃない、一、二発殴られても」って言われてて、あぁここはべてるだなぁってしみじみ思ったね。すごいよって。

向谷地:どうだったんですか?

下野:あの、僕行かなかったんですよ。

田口:え、行かなかったの?

下野:「タバコばら撒くな」とか言ったら絶対怒られるなと思って、別のスタッフの人が言ったら予定通り怒られてました。で、予定通り機嫌悪くなって、その後車に3人くらいで集まって。

田口:で、そういう事がね、私が行ったちょっと5分とか10分の間に淡々と起きて、淡々とあの何事も無かったかのように行われる。日常的な光景としてね。本当にね、その時あたしは浦河に来たんだっていう実感がわって込み上げてきてね。
だってあたしたち普通暮らしてて、やっぱりちょっとなんかこうタバコばら撒いて幻聴聞えてるような人が怒ってたらまず怖いって思ったりとかね、ましてやね、自分が今具合悪くって、それなのになんとかしてこいって言わないですよ。

下野:そう、べてるに行くと具合悪くなるんですよ。

向 谷地:逆なんですよね。下野君がグダグダしてますよね、あのグダグダ、グチグチ、ネチネチ、時々こうベトベトとかね。で、そんな状態になった時に「下野君、彼ちょっと調子悪そうだからケア頼むよ」って頼むんですよ。そしたらね、元気なんですよ。最近そう思ってるんですよ。

下野:常に自分よりも具合悪い人を面倒見て自分が調子よくなる。

向谷地:そうそう。

下野:話が会うんですよね、具合悪い人同士だと。

向谷地:一緒に住んでる住居のメンバーが最近すごいぱぴぷぺぽ状態で家財道具全部道路にばら撒いて、タンスも粉々にしてね、僕が彼の家に行った時にあんなに家財道具一杯あったのにいつの間に引っ越したんだろうってくらいもぬけの空で、カーテンも外すしカーテンレー ルも全部外して解体作業やってるんですよ。その彼を下野君が頼むねって言ってねぇ、ケアをし始めたら、下野君頑張ってだんだん元気になってきたんだよね。

下野:元気になるしかないんですよね。

田口:ははは。

向谷地:そういう感じですね。

田口:なるほどねー。